会計士の「難しい話」を“お金に困ってない人”にも届ける戦略

「会計士の話って、なんだか難しそう…」

それが、多くの人が会計士という存在に抱いている正直な印象ではないだろうか。税金、決算、資産管理、M&A、事業承継…。扱うテーマはどれも社会的に重要な内容ばかり。なのに、いざ情報発信をしても届くのは“困っている人”ばかり。逆に、「今は特に困っていないけど、将来のために知っておきたい」層には、なかなか響かない。

この記事では、そんな「困っていない人」にこそ、会計士の“難しい話”を届ける戦略について考えてみたい。伝えるべき相手に、難しい話を、どうすれば自然に届けられるのか――そこには、士業の発信全般に通じるヒントが隠されている。

「困っていない人」は、情報を探していない

会計士が日々直面する業務の多くは、「お金の問題」が表面化したときに求められるものだ。税務調査への対応や、急な相続問題、経営が不安定になったときの財務分析…。つまり、困った時に頼られる。

だが、「困っていない人」には、その情報が自分に関係あるとは思われていない。だから、検索もされず、SNSでもスルーされ、セミナーにも来ない。情報が届かないのは、情報の内容のせいではない。「タイミング」の問題なのだ。

では、どうすれば“困っていない人”にも届くのか?

カギは「想像させること」

「今すぐ必要じゃないけど、なんか将来役に立ちそう」。この感覚こそが、“困っていない人”に動いてもらう原動力だ。彼らは「情報を探してはいない」が、「価値ある情報には反応する」。だからこそ、「いかに“自分ごと化”してもらえるか」が重要になる。

例えば、

  • 「家族が海外に移住した時、確定申告ってどうなる?」
  • 「年収1000万超えたら税金どう変わる?」
  • 「急に親が亡くなったら、何から手をつける?」

こういったテーマなら、今困っていなくても、「あ、自分にも関係あるかも」と思える。問題は“専門性”ではない。“生活との接点”なのだ。

「難しい話」は、物語として届ける

会計士が扱う情報は、基本的に数字や制度が中心だ。だが、「制度の説明」は人の心に残らない。残るのは、「誰かの話」だ。

たとえば――

「起業して3年目の女性社長が、初めて税務署から連絡を受けた日。通帳を見て青ざめた彼女に、会計士が最初に言ったのは“とりあえず全部出してください”だった。」

このような、ちょっとしたストーリーを交えるだけで、「専門的な内容」も人間味を持って届く。物語には、読者が感情移入できる“入口”がある。専門知識をストレートに伝えるのではなく、ストーリーという「翻訳装置」を通して届ける。すると、難しい話も自然と“自分のこと”になる。

「カジュアルな話題」が最強の導線

専門職の多くが見落としがちなのが、「雑談」の力だ。

特に会計士が発信するブログやSNSでは、“税制改正”や“会計基準”の話が多くなりがちだが、それだけでは“困っていない人”には届かない。

だからこそ、たとえば――

  • 「子どもが大学に行くって、お金いくらかかる?」
  • 「ふるさと納税、どのサイトでやってる?」
  • 「お金持ちって、どこにお金をかけてるの?」

といった、“生活の延長線上”にある話題が、もっとも強力な導線になる。そこから自然に「実はこういう制度があってね」と専門的な話につなげていくのが、理想的な構成だ。

専門用語は“言い換え”と“余談”でやわらげる

「損金」「益金」「繰延」「償却資産」――こういった言葉は、会計士にとっては日常語だが、一般の人にとっては“拒絶スイッチ”になる。だからこそ、

  • 同じ意味でも「日常語」で言い換える
  • どうしても使う場合は、かみ砕いた解説をつける
  • 解説を“コラム風”にして、読み物として面白くする

たとえば、「償却資産」という言葉を出す時も、こう伝えるとスムーズだ。

※ちょっとだけ専門的な話をすると、こうした設備は「償却資産」として、毎年少しずつ価値が減っていく、という考え方で税金の計算をします。つまり、買った年に一括で経費にするのではなく、時間をかけて“少しずつ減らしていく”という仕組みです。

こうした柔らかい語り口は、文章に“人の気配”を与える。たとえWeb上のテキストでも、読む人にはそれが伝わる。

ターゲットは「知的好奇心」で動く層

「困ってない人に情報を届ける」と聞くと、多くの人は「届かないよ」と言う。だが、実際には“困ってないけど、学ぶのが好きな人”は一定数いる。特に、年収が高い層ほど「知的好奇心」でネットを彷徨っている。

彼らは、

  • ビジネス書やノウハウ系の記事を好んで読む
  • 投資や経営にも関心がある
  • 人間関係より“知識”に価値を置いている

こうした人々に向けて、「法律・税金・制度を“自分の人生の選択肢”として提示する」ことで、初めて会計士の専門的な知識が“ライフスタイルの一部”になる。これは、“情報消費者”ではなく、“情報投資家”へのアプローチだ。

「誰の役にも立たない話」が、実は価値を持つ

最後に、もう一つだけ触れておきたい。

会計士の発信において、「役に立つことを書こう」としすぎると、かえって読者は限定される。なぜなら、「役立つかどうか」は、読者が“困っている時”にしか判断できないからだ。

むしろ、

  • 「そういう考え方があるんだな」
  • 「知らなくても困らないけど、知ってると面白い」

こういった“知的余白”こそが、“困っていない人”に刺さる情報である。役立ちすぎる話よりも、「なんとなく面白かった」が共有され、再訪され、記憶に残る。

会計士の情報発信は「広く浅く」ではなく「狭く深く」

誰でも読めるように…と思って発信すると、実は“誰にも届かない”という落とし穴がある。だからこそ、「特定のテーマ」について、「じっくり丁寧に」書いた記事が、検索され、読まれ、資産として残る。

それは、決して「難しい話をわかりやすく」だけではない。

「面白い話の中に、難しいことを溶け込ませる」こと。

それこそが、“お金に困っていない人”にも届く、会計士の情報発信の戦略である。