新人士業が“専門家感”を演出する方法

士業として独立開業するにあたり、避けて通れない壁の一つが「専門家としての信頼感をどう醸し出すか」という問題です。

どれほど資格や実務能力に自信があったとしても、開業間もない士業がすぐに“選ばれる専門家”になるには、情報発信や見せ方の工夫が欠かせません。

これは単なる「見栄えの良さ」や「かっこよさ」といったビジュアル面の話にとどまらず、士業という職業の特性に即した“専門性の可視化”の話でもあります。

今回は、新人弁護士や司法書士、行政書士、税理士、社会保険労務士などが、開業当初から「専門家としての雰囲気=専門家感」を演出するために必要な方法と、その裏側にある考え方を解説していきます。

なぜ「専門家感」が必要なのか?

資格を取った時点で専門家であることは間違いありません。しかし、世間一般の目線はそれほど甘くありません。依頼を検討している人の多くは、「実績」や「経験」を重視する傾向にあります。これは自然なことであり、同じ料金を支払うのであれば、経験豊富な専門家にお願いしたいと思うのは当然です。

しかし、実際のところ“実績がない=選ばれない”というわけではありません。大切なのは、実績が少なくても「この人なら信頼できそう」と思わせる雰囲気、すなわち「専門家感」の演出なのです。

「専門家感」はどこで感じ取られるのか?

  • 写真やデザインなどの視覚情報
  • 話し方・文章の言い回し
  • ホームページやSNSなどの情報発信
  • プロフィールや経歴の見せ方
  • 第三者評価(レビューや紹介)

これらを意識的に整えていくことで、「専門家として信頼できる」という印象を与えることができます。

見た目の印象だけで“専門家感”は変わる

たとえば、あなたが何かトラブルに巻き込まれて弁護士を探しているとしましょう。そのとき、次の二人の弁護士がいたとします。

A:自撮りのような写真を使い、フリーのブログサービスで簡素な文章を載せたサイトを持っている。

B:清潔感のあるプロフィール写真と、専門分野が整理された構成のホームページを持ち、専門的なコラムを定期的に更新している。

あなたならどちらを信頼するでしょうか?

もちろん、実際の能力とは無関係ですが、現代では「見せ方が能力と直結しているように見えてしまう」現実があります。これは士業の世界でも同じです。

実績がなくても“信頼”は得られる

1. 専門的なテーマに絞った情報発信

たとえば行政書士なら、「遺言書作成サポート」や「外国人の在留資格取得」など、自分が力を入れたい分野に特化したブログやコラムを発信しましょう。

専門的でニッチな内容こそ、一般の人にとっては“専門家の意見”として捉えられやすく、専門性を感じてもらうには最適です。

補足:「在留資格」などの言葉は一般の人には難しい場合もありますが、記事中に簡単な解説を加えることで専門性と親切さの両方を演出できます。

2. 自身の「考え方」を言語化する

実績が乏しいなら、考え方を明確にしましょう。「このような信念で業務に取り組んでいる」という言葉は、相手にとって大きな判断材料となります。

ただし、ポエムのような情緒的なものではなく、課題や手続きに対する具体的な視点で書くことがポイントです。

専門家感を高めるWebコンテンツの工夫

プロフィールは「肩書き」だけで終わらせない

たとえば、

○○大学法学部卒業/令和5年司法試験合格/東京弁護士会所属

だけでは印象に残りません。

以下のような要素を組み込むと、より“人となり”が伝わり、かつ専門家感も増します。

  • なぜその資格を取得したのか
  • どういった人の役に立ちたいと考えているのか
  • どんな事件・案件に関心があるか
  • 書籍や論文などの影響を受けた内容(あれば)

これは自己紹介ではなく、「価値観の表明」です。

実績が少ないときに使える「仮想実績」的な表現

※誤解を避けるために先に述べておくと、事実を捏造するのは絶対にNGです。

しかし、たとえば以下のような表現は誤解を生まずに専門家感を高めることができます。

  • 過去に類似のケースを学ぶ中で、特に重要と感じたのが○○という視点です。
  • ○○手続きは一見簡単そうに見えますが、実際には○○という落とし穴があります。

実際に関わったわけでなくても、知見を持っていることを示すことはできます。これは“理論的な実務知識”を表現しているだけであり、誇大でも虚偽でもありません。

視覚的な「専門家感」の重要性

写真はプロに依頼する価値あり

素人撮影の写真では、“専門家”としての印象は弱まってしまいます。たとえば以下のような工夫が有効です。

  • 白背景やオフィス風の背景で清潔感のある構図
  • スーツ着用で姿勢を整えた自然な表情
  • 書類やPC、六法全書などの小道具も効果的

また、メガネをかけると知的な印象を与えやすくなるという調査結果もあります(ただし似合うかどうかは個人差あり)。

配色やフォントも専門性に関係する

ホームページのデザインも重要です。信頼感を演出するためには、以下のような色やフォントが効果的です。

  • 色:ネイビー、ダークグレー、ホワイトなど落ち着いた色
  • フォント:明朝体、ゴシック体などの整った書体

ポップすぎる色合いや手書き風フォントは避けるべきです。たとえば「法律事務所なのにピンクのパステルカラー」などは、専門家感を下げる要因になります。

第三者からの信頼を“演出”する方法

新人士業にとって「紹介」や「口コミ」は最初から多く得られるものではありません。そこで利用したいのが、次のような方法です。

仮想Q&A形式の記事を発信する

「こんな相談を受けました(仮想)」という形でQ&A記事を作成すると、専門性を伝えることができます。もちろん、実際の相談例ではない旨は明示しておく必要があります。

無料セミナーや動画のアーカイブを設ける

録画でも良いので、「こういうことを話せる人なんだ」と感じてもらえる素材を残しておくと、ホームページにおける信頼性が大きく向上します。Zoom録画などでも十分です。

“選ばれやすい専門家”の共通点とは?

実績があっても、専門家感があっても、依頼されない士業もいれば、経験が浅くても依頼が集まる士業もいます。

この違いは「自分の専門性が、誰の、どんな悩みに対応しているのか」が明確かどうかです。

例)「離婚手続き全般」に強い司法書士ではなく、「離婚時の不動産登記に強い司法書士」だと印象に残ります。

専門性は「広さ」よりも「深さ」と「対象の明確さ」で記憶されます。自分の専門性を、より具体的に・深く・誰のためのものかを伝えることが、“専門家感”を超えて、“選ばれる専門家”への第一歩です。