AI時代に選ばれる士業の共通点とは?
“人間らしさ”の打ち出し方
ChatGPT、Copilot、Claude、Suno、そして次々と登場するAIサービスの波——
いまや法律や税務、労務の分野にも、AIの自動化が深く入り込み始めています。
ではこの先、AIが加速度的に進化していく中で、「士業」と呼ばれる専門職はどう変わっていくのでしょうか。そして、AIと共存しながら選ばれ続ける士業には、どんな共通点があるのでしょうか。
本記事では、弁護士、司法書士、行政書士、税理士、会計士、社労士といった士業に携わる方々が、今後「選ばれる存在」であり続けるために必要な“人間らしさ”の打ち出し方について掘り下げていきます。
AIができること、できないこと
AIは情報処理に強く、判断の背景に弱い
まず、AIの得意分野と苦手分野を正しく理解することが大切です。
たとえば税務の申告書類作成や契約書のひな形作成、過去の裁判例のリサーチなど、形式化されたタスクにおいてはAIはすでに非常に高い精度を誇ります。Google検索を駆使していた時代とは異なり、自然言語で指示するだけでAIが要点をまとめてくれる時代です。
一方、AIが苦手としているのは、「人の感情が絡む問題」「個別の背景事情をくみ取る力」「倫理的な判断」といった、まさに“人間らしさ”が問われる領域です。
AIはルールやデータを前提としたロジックには強いですが、「なぜこの人がこう悩むのか」「この選択をしたときの将来的なリスク」など、背景や余白まで読み取る力はまだ発展途上にあります。
「情報提供」から「共感と選択のナビゲーション」へ
これまでの士業のホームページは、「業務内容の説明」「料金表」「事務所紹介」といった、“情報を正確に提供する場”として機能してきました。
しかし、今後はそれだけでは足りません。
AIによって情報へのアクセスが容易になった今、士業に求められるのは、「私にとって、どの選択肢が最も良いか?」を一緒に考えてくれる共感力とガイド力です。
たとえば…
- 離婚調停に進むべきか、まずは夫婦カウンセリングを試すべきか?
- 新しい事業を法人化するタイミングはいつか?
- 退職代行を使った従業員に会社としてどう対応すべきか?
これらは、法律や規定だけで割り切れる問題ではありません。
クライアントの状況や価値観、そして未来への不安までくみ取ったうえで、適切な“選択”をサポートする役割が求められているのです。
「人間らしさ」を伝える3つのアプローチ
1. 価値観を可視化する「ストーリー」
士業の業務内容は、どうしても形式的・客観的になりがちです。しかし、その人がどんな経緯でその道を選び、何を大事にしてきたのかという「背景」こそが、他者と差別化する強い軸になります。
- なぜこの地域で開業したのか
- なぜ今の分野を選んだのか
- どんな時にやりがいを感じるのか
こうしたストーリーは、決して派手でなくて構いません。むしろ等身大でリアルな語り口のほうが、人の心に響きます。
【例】「大学時代、ある労働トラブルに直面した友人を支えた経験が、社労士を志すきっかけになった」
こういった原点の話を通じて、読者は「あ、この人なら信頼できそうだ」と自然に感じてくれるのです。
2. 共感を生む「問いかけ」のスタンス
士業の情報発信には、つい「~すべきです」「~が正解です」という断定口調が多くなりがちです。しかし、相談者の多くは「何が正解かが分からない状態」にいます。
そのため、強く導くよりも、一緒に考える姿勢のほうが好まれる傾向にあります。
「こんなことでお悩みではありませんか?」
「もしかすると、こんな不安を抱えていませんか?」
こうした問いかけを起点とすることで、読み手に「この人は私の気持ちをわかってくれる」と感じてもらいやすくなります。
また、こうした問いかけを交えた情報発信は、検索エンジンにも強く、SEO的な効果も期待できます。
3. 選ばれる理由を“空気感”で伝える
「誠実」「親身」「ていねい」といった言葉は、どの士業者も使いがちです。しかしそれらは抽象的すぎて、他と差がつきません。
代わりに意識したいのが、“空気感”で伝えるという視点です。
- 柔らかい言葉遣い
- ご自身の写真や事務所の雰囲気
- 実際の相談事例(匿名加工)
- クライアントの声
こうした「人柄や温度」が伝わる情報は、AIには決して再現できません。
人間ならではのあたたかさを、文章や写真を通じて“にじませる”ことで、相談者の感情を動かす力になります。
ChatGPT時代における「相談する理由」とは
士業の仕事の多くは、AIによって補完される時代に入りました。
契約書作成、相続の初期診断、税金計算…。ある程度はAIで済んでしまう場面も、今後ますます増えていくでしょう。
それでも、「AIで済ませるか」「士業に相談するか」の分かれ道に立ったとき、相談者が選ぶのは、“人としての信頼感”です。
- この人なら、ちゃんと話を聞いてくれる
- この人なら、私の立場で一緒に考えてくれる
- この人なら、将来の不安まで想像してくれる
そう思えるかどうかが、決定的な差になります。
AIと競うのではなく、AIを“味方”にする
AI時代の士業にとって、重要なのは「AIに負けないように頑張る」ことではありません。
むしろ、「AIに任せられるところは任せ、自分にしかできないことに集中する」視点こそがカギとなります。
たとえば—
- 簡易的な法律調査はAIに任せ、複雑な案件に集中
- 会計入力や資料作成は自動化し、顧客との面談に時間を確保
- よくある質問への回答はAIチャットで用意し、人間は判断に専念
こうした「役割の分担」ができる士業こそが、これからの時代に“必要とされる存在”となっていくのです。
最後に:士業の価値は「感情を扱う力」にある
結局のところ、士業の本質とは「知識を売ること」ではなく、「人の悩みを受け止め、最適な道を一緒に探すこと」にあります。
そのためには、デジタル化が進む時代だからこそ、人としての魅力や温度感を、どれだけ表現できるかが問われるのです。
AIが台頭する今、士業としての役割は終わりではありません。むしろ、「人間にしかできないこと」がより明確になったからこそ、“選ばれる理由”を磨きやすい時代ともいえるでしょう。
人が人を選ぶ——
その原点を見つめなおすことが、AI時代の士業にとって最大の武器になるかもしれません。