あなたの専門知識は伝わっているか?ホームページ上で“難解さ”を好印象に変える方法
「伝えること」の落とし穴:士業の専門性と“伝わらなさ”のジレンマ
弁護士や司法書士、税理士など、いわゆる士業の方々のホームページには、ある共通点があります。それは、専門性が高く、真面目で信頼感のある構成になっている反面、「結局何ができるのか」が、専門外の人には伝わりにくいという点です。
これは、士業という職業そのものが「知識を提供すること」が価値となるため、どうしても説明が長文化し、専門用語も多用されやすいという事情に起因します。しかし、ここに“伝えたい”と“伝わる”の大きなギャップが生じがちです。
たとえば、以下のような文章をご覧ください:
当事務所では、債権回収に関する法的手段を駆使し、仮差押えや訴訟提起、強制執行に至るまでの一連のプロセスをワンストップで対応いたします。
この文を読んで「なるほど、それならお願いしよう」と思う人は、実は少数です。なぜなら、多くの一般ユーザーは「仮差押え」も「強制執行」も理解していないからです。
しかし、これは決して悪いことではありません。むしろ、“難解さ”は、士業の信頼性や専門性の裏付けになり得ます。問題は、それをどう「見せる」か、なのです。
「読みやすさ=信頼感」ではない?
ユーザーにとって「分かりやすいこと」は確かに安心材料です。しかし、「分かりやすすぎる」と、「本当に信頼できるのか?」という逆の疑念を抱かれるケースもあります。特に、法律や税務などの複雑な分野では、「専門的に見える」ことが第一印象に強く影響します。
ここで注目したいのが、「難しさをそのままにしておく」のではなく、「難しさをどう好印象に変えるか」という視点です。
方法1:専門用語は翻訳せず“添える”
専門用語は、初心者向けにすべてを“かみ砕いて”説明するよりも、まずはそのまま使ってみて、必要に応じて簡単な注釈を入れる形式が効果的です。
例:
任意整理(※裁判を通さずに借金を整理する手続き)を検討する際は、債権者との交渉能力が問われます。
このようにすることで、
- 専門性はそのままに
- 初心者にも配慮している印象
- 解説付きなので読みやすい
というバランスが保たれます。
方法2:図解・フロー図を活用して“構造”で見せる
複雑なプロセスは、文章で追うと理解が追いつきません。ここで有効なのが、図解やフローチャートです。
例えば、相続の手続きフローを図解で見せると、視覚的に「やるべきこと」「順番」「注意点」がひと目で分かります。
これはデザイン面の話でありながら、実は読み手の安心感に直結します。言い換えれば、読み手にとって“見えない知識”を、“見える知識”へと変換してあげる作業とも言えるのです。
方法3:実例ベースで語る
「事例」は最強の翻訳ツールです。たとえば、「会社設立後の社会保険の手続きについて」という内容を取り上げる際に、以下のように書くとどうでしょうか。
【ケーススタディ】
– 業種:IT系スタートアップ
– 設立時期:2024年1月
– 従業員:5名
– 社会保険手続き:設立2週間以内に年金事務所へ届け出。社会保険労務士に依頼。
これにより、
- 読者が自分ごととして読める
- 書き手の経験値が暗に伝わる
- 無機質な情報に温度が生まれる
という三重の効果が期待できます。
方法4:FAQ形式で“意図的な素人視点”を挿入する
士業の方が陥りやすい落とし穴として、「自分には当たり前すぎて説明が省略される」という点があります。これを防ぐために、意図的に「素人視点」をホームページ内に持ち込むことが有効です。
たとえば:
Q.「任意整理」と「自己破産」はどう違うの?
A.どちらも借金問題を解決する手段ですが、任意整理は裁判所を使わず、自己破産は使います。
このようにQ&A形式を用いることで、読者が「分からないことを聞いていいんだ」という安心感を得られます。
方法5:文章よりも「構成」で信頼を築く
信頼されるホームページには、共通する“空気”があります。それは、
- 情報が整っている
- 必要な情報にすぐ辿りつける
- デザインが端正
といった、「構造的な安心感」です。これは文章だけでなく、ホームページ全体の設計にも関わってきます。逆に言えば、どれだけ良い文章を書いても、読み手が迷子になるような構成であれば、信頼は得られません。
ここで、よく言われる「UX(ユーザー体験)」という言葉に触れておきましょう。
【用語解説】UX(ユーザーエクスペリエンス)
ユーザーエクスペリエンスとは、ホームページを利用する人が感じる体験全体を指します。ページの見やすさ、操作のしやすさ、目的情報の探しやすさなどがUXに影響します。
士業のホームページにおいても、UXが高い=信頼感が高いと認識される傾向があります。
方法6:プロフィールは“感情”で構成する
実績や資格を列挙するだけでは、読み手の記憶に残りません。士業という職業においては、「この人はどういう人なんだろう?」という感情面の理解が意外と重要です。
たとえば、次のようなプロフィールの書き方:
- 「大学時代、祖父の遺産整理を通じて法律に興味を持ちました」
- 「開業当初は、事務所の電話が鳴らない日もありました」
このように、少しだけ“物語性”を加えることで、「この人に話を聞いてみたい」と思わせる力が生まれます。
まとめ:難解な専門性こそが最大の魅力
士業のホームページは、「分かりやすさ」だけを追求すると、専門性という本来の強みが薄れてしまう恐れがあります。
大切なのは、「難しさを排除すること」ではなく、「難しさを魅力に変換する視点」を持つこと。専門用語を適切に添え、図や事例で補完し、読み手の立場で再構成することで、専門性が伝わる“構造”を生むことができます。
難しさは、読み手にとっては未知の領域かもしれません。しかし、その難しさをどう伝えるかによって、「信頼感」や「親近感」へと昇華できるのです。
ホームページは、単なる名刺代わりではありません。そこに、あなた自身の専門知識の価値が、読み手の心にどう届くのかを左右する重要な場です。だからこそ、伝える工夫を惜しまず、「伝わること」を丁寧に設計していきましょう。