「顕在顧客だけ狙っていませんか?」―取りこぼされる“潜在顧客”へのアプローチの重要性
「すぐ依頼してくれる人にだけアプローチしたい」――士業に限らず、多くの業種でよく聞く言葉だ。しかし、目の前にいる“今すぐ客”ばかりに目を向け続けると、やがて集客の地盤は崩れ、事務所の成長は鈍化する。これは、弁護士・司法書士・行政書士・税理士・会計士・社労士といった士業の業態でも例外ではない。
顕在顧客(=今すぐ依頼したいと考えている人)は、確かにありがたい存在だ。だが、その層ばかりを狙うと競合も多く、単価競争やスピード勝負に巻き込まれやすい。この記事では、なぜ多くの士業が顕在顧客ばかりを追いがちなのか、そして今こそ“潜在顧客”への認知拡大に目を向けるべき理由を掘り下げていく。
■「顕在顧客だけを狙う」戦略の限界
顕在顧客は、Google検索で「○○市 弁護士 離婚」や「確定申告 税理士 おすすめ」など、具体的なキーワードで調べている。言い換えれば、彼らはすでに問題意識があり、解決手段として士業にアクセスしようとしている段階だ。
これは広告やSEO対策で言えば、成果が出やすいゾーンであり、広告単価(CPC:Cost Per Click)も高騰しやすい。
だが、注意したいのは以下の点である:
- 顕在顧客は常に一定数ではない(時期や季節によって変動)
- 顕在層は他士業とも比較しやすく、価格競争になりやすい
- 今すぐ客が少なくなった途端に集客が止まる
つまり、「すぐ来てくれるお客様」に依存しすぎると、安定した集客基盤が築けないのだ。
■潜在顧客とは何か?
潜在顧客とは、「今すぐ依頼しよう」とは思っていないが、将来的に必要となる可能性のある層を指す。
たとえば:
- 相続のことを何となく気にしている40代
- 起業しようか迷っているサラリーマン
- 契約書の重要性は知っているが、まだ自分では対策していない中小企業経営者
こうした層は、日常的に情報収集をしていたり、YouTubeやブログで勉強していたりする。いわば“士業への道”の入口にいる存在だ。
潜在顧客に対して、自らを「思い出してもらえる存在」として印象づけることが、将来の安定的な集客につながっていく。
■なぜ多くの士業は潜在顧客にアプローチしないのか
理由はシンプルだ。
- 「効果がすぐに出ない」
- 「どうやってアプローチしたらいいかわからない」
- 「忙しくて、そこまで手が回らない」
これは事務所経営の本質と密接に関係している。士業は本来、業務が属人的であるため、売上を追う=自分が稼働する、という構造になりがちだ。そのため、「今すぐ客」を逃さないことに集中してしまう。
だが本来、集客や営業は“時間差攻撃”でなければならない。今はまだ依頼する段階にいない人に、自分の存在を知ってもらい、必要になったときに思い出してもらえるようにしておく。これこそが、持続可能な集客戦略である。
■「認知」という種をまく
広告やSEO、SNS運用などは「刈り取り」よりも「種まき」だと考えるべきだ。潜在層へのアプローチは、すぐには芽が出ないが、数ヶ月、あるいは数年後に「問い合わせ」として返ってくる可能性がある。
たとえば、
- ブログで「相続で揉めないための準備術」などの読み物を発信する
- YouTubeで「離婚時に気をつけたい財産分与のポイント」を説明する
- SNSで日常業務の一コマや、事例紹介を発信する
これらはすべて“認知の種まき”であり、やがて芽が出て実になる。
■「知っている士業」と「知らない士業」
人は、必要なときに「知っている人」に頼る。これはビジネスでもプライベートでも共通だ。潜在顧客にとっての“知っている”状態とは、
- 一度でも名前を見たことがある
- SNSで見かけたことがある
- 誰かが紹介していた
このような、薄くても繰り返される接点によって形成される。だからこそ、定期的な発信・露出が極めて重要になる。
■情報発信は「教育」でもある
潜在顧客にとって、士業の業務はわかりづらい。そのため、多くの人は問題が起きてからしか相談しない。
そこでブログや動画などのコンテンツを通じて、
- 予防的な対策の必要性
- 早期に相談すべき理由
- 士業が提供できる価値
を伝えていくことは、見込み客を「問題が起きる前に相談する顧客」へと育てる“教育”の役割を果たす。
これは営業トークではない。価値提供の一環であり、その結果として「信頼」が蓄積されていく。
■SNS・広告・ブログ……使い分けのポイント
潜在層へ認知を広げるためのチャネルは複数ある。
- SNS(X、Instagram、Facebookなど):日常的な接点作りに強い。コメントやシェアによる拡散も見込める。
- ブログ:検索流入を狙った中長期的な資産。ノウハウ・事例・考え方などの蓄積に向いている。
- YouTube:“顔出し”により信頼性が高まり、話し方・雰囲気なども伝えられる。
- リスティング広告・ディスプレイ広告:即効性重視。潜在層には特にディスプレイ広告が有効(興味関心によるターゲティングが可能)。
これらを連動させ、「認知→理解→信頼→選択」へと導く“仕組み”を構築することが求められる。
■最後に:「思い出す仕組み」を持っているか?
最終的に、潜在顧客への認知拡大とは「思い出してもらえる仕組み作り」である。
問題が起きたとき、あるいは誰かから相談されたときに、「そういえば、あの人が言ってたな」「前にブログで読んだことがあるな」と思い出してもらえれば、その瞬間に選ばれる可能性が一気に高まる。
そのためには、
- 価値ある情報の提供
- 定期的な露出
- 読み手に寄り添った発信
が欠かせない。士業が“選ばれる側”にまわるためには、単に「資格を持っている」こと以上に、「思い出してもらえる工夫」をどれだけしているかが問われる時代になってきている。
顕在顧客を狙うのは悪くない。だが、それだけでは集客の地盤は弱くなる。潜在顧客に目を向けることこそが、長期的な視点で見たときの安定的かつ強固な集客基盤をつくる道なのである。