“思い出す仕組み”で選ばれる士業ホームページ戦略

士業と信頼、そして「思い出す仕組み」

士業と呼ばれる専門家たち——弁護士、司法書士、行政書士、税理士、会計士、社会保険労務士など——は、いずれも「信頼」が鍵となる職業です。そして信頼の裏には、「思い出してもらえる存在であること」が不可欠です。

世の中には優れた士業が数多く存在しているにもかかわらず、選ばれるのはほんの一握り。実力差というより、「思い出す仕組み」を持っているかどうかの違いが大きく影響しています。今回はその「思い出す仕組み」をホームページでどう設計するか、という戦略的な視点で深堀りしていきます。

なぜ「思い出してもらうこと」が必要なのか?

士業の多くが抱える悩みの一つに「ホームページを作ったのに依頼が来ない」という声があります。SEOにも取り組み、しっかりとした情報発信をしているのに結果につながらない——それは、検索された時に「選ばれる理由」がホームページ上に明確に存在していない、またはユーザーの記憶に「定着していない」からです。

つまり、士業のホームページには「記憶に残る仕掛け=思い出す仕組み」が必要なのです。

「思い出す仕組み」は広告ではなく“記憶戦略”

広告とは、言ってしまえば「目の前に出てきたから気づいた」という一時的な効果に過ぎません。一方で「思い出す仕組み」は、ユーザーが何か問題を抱えた瞬間に「あの人に相談してみよう」と自然に頭の中に浮かんでくるような構造です。

例えば、「離婚 相談」と検索した人が、3ヶ月前に読んだ弁護士のブログ記事をふと思い出してアクセスする。この行動こそが“記憶戦略”の成果なのです。

では、どうすれば「思い出す仕組み」ができるのか?

1. ストーリーベースの情報発信

単なる法律の解説記事ではなく、「人となり」が伝わるストーリー性のあるコンテンツが必要です。たとえば、

  • 過去に対応した相談事例(個人情報は伏せたうえで)
  • 開業当初の思いや迷い
  • なぜこの士業を選んだのかという原体験

といった個人的なエピソードは、「その人らしさ」を伝えるための最も強力な武器です。これはマーケティングの世界で「エモーショナル・ブランディング」とも呼ばれます。つまり、理屈ではなく「感情」で記憶されるということです。

2. 定期的な情報発信=“存在の定着化”

士業はどうしても「検索される瞬間だけが勝負」と思われがちですが、実際には“検索される前の印象”が決定打になります。

定期的なブログ更新、SNS連携、あるいはメルマガといった継続的なタッチポイントを作ることによって、「なんとなくこの人の名前をよく見かけるな」という“刷り込み”が起こります。

これが「トップ・オブ・マインド(Top of Mind)」と呼ばれる状態で、簡単に言えば「その分野で最初に思い出す人」です。士業においてこのポジションを取れるかどうかで、問い合わせ率は大きく変わってきます。

3. 名前と顔の“紐付け”を意識する

士業ホームページでは、プロフィール写真や動画の活用が推奨されます。なぜなら、「人は顔を覚えることで記憶が深まる」からです。

ある研究では、人間は文字情報よりも顔写真の方がはるかに記憶に残るという結果が出ています。顔が見えることは安心感にもつながるため、初対面時の心理的なハードルも下がります。

できれば「笑顔の写真」「執務中の写真」「セミナー登壇中の写真」など、シチュエーションを分けて複数枚掲載しておくのが理想です。

4. トリガーワードの埋め込み

人の記憶は「関連ワード」とセットで引き出されます。士業のホームページでも、「特定のキーワードと名前をセットで覚えてもらう」戦略が有効です。

  • 「飲食業専門の税理士」
  • 「相続に強い司法書士」
  • 「起業家支援に特化した行政書士」

というように、「誰向けか」を明確に伝えることで、クライアントの中に強く残るポジションを築けます。これは「ポジショニング戦略」と呼ばれ、マーケティングの基本原則でもあります。

5. キャッチコピーに“余白”を持たせる

「離婚相談のエキスパート」「顧問契約の実績多数」といったコピーは機能性は高いものの、ユーザーの記憶には残りにくいものです。

そこで有効なのが、“想像させる余白”を持ったキャッチコピー。

  • 「話しやすい弁護士でいたい」
  • 「あなたの“はじめて”に寄り添います」
  • 「税金のことで眠れない夜に、思い出してほしい」

こうした表現は“読み手の感情に訴え”、その人自身の経験とリンクすることで、強く記憶に残るのです。

覚えやすく、忘れられにくいホームページの特徴とは

実際に“思い出す仕組み”をデザインする際、ホームページ全体の設計にも気を配る必要があります。以下にポイントをまとめます。

  • 構造がシンプルであること:メニュー項目が多すぎる、情報が縦に長すぎると、ユーザーは「疲れ」を感じて記憶に残りません。
  • デザインが個性的すぎない:派手なデザインは短期的には目を引きますが、記憶には定着しづらい傾向があります。むしろ「清潔感」「落ち着き」「柔らかさ」が長期記憶には有利です。
  • アイコンや色の統一:名刺、パンフレット、看板などとデザイントーンを一致させることで、「視覚記憶」として定着しやすくなります。

読者の「記憶のタンス」に入れてもらうために

ホームページというのは「検索されるための箱」ではなく、「記憶にしまわれるための器」である——そんな考え方が、これからの士業には求められます。

人は困った時、検索する前に「誰かを思い出す」ものです。その思い出される対象になるためには、日頃から小さな記憶の種を撒いておくことが必要です。

  • ブログ記事で“自分らしさ”を伝える
  • メルマガで“関係性”を維持する
  • 写真で“顔と名前”を覚えてもらう
  • 専門分野で“トリガーワード”を与える

こうした積み重ねが、競争激化する士業界の中で「選ばれる理由」を作るのです。

最後に

どれだけ立派なホームページでも、それが記憶に残らなければ意味がありません。「思い出す仕組み」は、SEOや広告とは違う、地道ながらも確実な信頼構築の方法です。

いま目の前に問い合わせがなくても、半年後、一年後に思い出されることがある。そういう持続力のあるホームページこそ、士業にふさわしいと言えるのではないでしょうか。