「あるある話」がファンを生む?士業のストーリーブログ術

士業と聞くと、どこか堅苦しいイメージがつきまとう。法律、税務、社会保険…。その専門性の高さは、多くの人にとって「分かりづらい世界」の象徴でもある。
そんな中、ここ数年で静かに注目を集めているのが「ストーリーブログ」だ。しかもそれが、単なる情報発信を超えて、ファンを生み、結果として依頼のきっかけになるという話まである。

この記事では、弁護士、司法書士、行政書士、税理士、会計士、社労士といった“士業”の方が、どのようにして「あるある話」や「自分の体験談」を織り交ぜたストーリーブログを書くことで読者との距離を縮め、信頼を獲得していけるのかを深掘りしていきたい。

ストーリーは“親近感”の武器

士業の専門性は武器である反面、親しみやすさという点ではマイナスに働くこともある。
専門用語が飛び交い、固い文章ばかりでは、読み手が離れてしまう可能性があるのだ。
この時、有効なのが「ストーリー」だ。

ストーリーには、人の感情を動かす力がある。自分と同じような悩みを抱えた登場人物が登場したり、士業者が直面した“失敗談”や“学び”が語られることで、読者は次第に「この人に相談してみたい」と思うようになる。
これは、いわゆる“ハロー効果”の一種とも言える。

【用語解説:ハロー効果】
ある一面(例:人柄が良さそう)だけを見て、他の全体像(専門性、信頼性)まで良く見えてしまう心理現象のこと。

つまり、「面白い」「共感できる」「感じがいい」と思わせることが、読者の中に“信頼の芽”を植えるきっかけになるということだ。

なぜ「あるある話」が効くのか

例えば、こんな一文を想像してみてほしい。

「相続登記の相談でご来所されたお客様。戸籍の収集で途中まで進んでいたものの、ひ孫の代まで遡る必要があると知って唖然。『まるで時代劇みたいですね』と笑ったのが印象的でした」

このような“士業の日常”を垣間見せるエピソードは、読者にとっては「あるある!」の宝庫だ。
似たような状況にある人ほど、「わかる!」「うちもそんな感じ!」と共感する。そして、次第に「この先生、わかってくれそう」と思い始める。

士業ブログの多くは、法律の解説や手続きの流れなど、事務的な内容に終始していることが多い。しかし、情報過多の時代において、そうした記事は“検索すれば誰でも見つかる情報”になりがちだ。
むしろ、読み手が求めているのは「気持ちに寄り添ってくれる誰か」であり、「分かってくれる実在の人」なのだ。

【補足:情報発信の“差別化”は内容ではなく“人間味”で】
士業の多くが同じような情報を発信する中で、他と違いを出すには「人間らしさ」の演出が重要になる。これは“属人ブランディング”とも呼ばれ、企業ではなく「この人だから頼みたい」という流れを生み出す効果がある。

ストーリーブログの基本構造

では、実際にストーリーブログを書くにはどうすればよいのか?
基本構造としては、以下のような流れが効果的だ。

  • 状況の提示(誰が、どんなことで悩んでいたのか)
  • 経緯の描写(どのように相談が進んでいったか)
  • 気づきや発見(士業側が感じたこと、学んだこと)
  • まとめ・教訓(読み手へのメッセージやアドバイス)

この流れは、物語の基本構造「起承転結」にも似ている。読者は自然と物語に引き込まれ、最後まで読み進めやすくなる。

【例:行政書士のストーリーブログ(要約版)】
「開業したてのカフェオーナーが、急に保健所から指導が入り、営業停止の危機に。『営業許可が必要なのは知ってましたが…こんな細かい点までとは』。法規制の説明だけでなく、地域との調整に奔走した数日間。結果として営業再開できたときの笑顔は今も忘れられません」

読み物として面白いだけでなく、「行政書士ってこんなことまで対応してくれるのか」と、サービスへの理解も深まる。

誰のために書くのか:ターゲット設定の重要性

ブログを書く上で陥りがちなのが、「誰に向けて書いているのかが曖昧になる」ことだ。
特に士業の場合、あらゆる年代・業種のクライアントに対応していることが多く、ブログのターゲットもブレやすい。

しかし、ストーリーブログで読者の共感を得るためには、「誰に語りかけるのか」を明確にする必要がある。

例えば、以下のように分類するとイメージが湧きやすい。

  • 子育て世代のシングルマザー(離婚や養育費問題)
  • 高齢者の長男(相続問題)
  • 中小企業の社長(就業規則、労務トラブル)
  • フリーランス(税務処理、開業届)

特定の読者像を思い浮かべながら書くことで、内容がぐっと深くなり、「自分ごと」として受け止められやすくなる。

「プロっぽさ」は文章力ではなく“体験”で伝わる

士業ブログを書いていると、「うまく書かなきゃ」「誤字脱字がないように」と文章の完成度ばかりに意識が向くことがある。
しかし、本当に大事なのは“伝えるべき体験”があるかどうか、だ。

実際、少々荒削りな文章でも、読者の心を打つ記事は数多く存在する。逆に、いくら文章が整っていても、表面的な内容では読まれない。
つまり、「プロらしさ」とは、言葉の巧みさではなく、“実際に現場で向き合ってきた体験”の積み重ねで伝わるということだ。

読者は“完璧な士業者”を求めているわけではない。
時には悩み、迷いながらも依頼者と共に歩んできた“リアル”な物語こそが、読者の心を打つ。

ストーリーブログは“選ばれる理由”になる

インターネット上には、士業の紹介サイトや口コミサイト、比較サイトがあふれている。
情報が氾濫する中で「どうやって選ばれるのか?」は、あらゆる士業にとっての課題だ。

ストーリーブログは、その答えの一つになりうる。
なぜなら、「誰がやっても同じ」ように見える業務に、“その人ならでは”の背景や思いが加わるからだ。

読者はこう感じるはずだ。
「なんかこの人、信用できそうだな」
「この人だったら、ちゃんと向き合ってくれそうだな」

これは、検索結果の1ページ目に載るかどうか以上に重要な“印象戦略”であり、最終的な選択の決め手になりやすい。

おわりに:文章の向こうに“人”を感じさせる

士業の発信は、つい“正確さ”や“網羅性”を重視しがちだ。もちろん、それは大切だ。
しかし、読み手にとって本当に響くのは、“人となり”が見える言葉だ。

ストーリーブログは、士業者自身の歩みを通じて読者との“接点”を築くためのツール。
特に「あるある話」や「ちょっとしたミス談」など、弱さや失敗も含めて描かれた物語は、何よりも“人間らしさ”を伝えてくれる。

専門性の高さだけでは差別化が難しくなってきた今だからこそ、ストーリーブログのような「読まれるコンテンツ」は、大きな資産となるはずだ。

地味だけど、じわじわ効く。そんな“人間くさいブログ”こそが、ファンを生み、信頼を築いていく。