士業の強みを「ジャンル分け」で魅せる戦略

はじめに

士業と呼ばれる職業――弁護士、司法書士、行政書士、税理士、公認会計士、社会保険労務士など――は、専門知識を武器に依頼者の課題解決を担う存在です。しかし、実際の業務の幅広さや対応力の高さに比べ、その魅力が十分に伝わっていないケースは少なくありません。

とりわけ、ホームページなどのWeb上の情報発信において、「何が得意なのか」「どのような人に向いているのか」といった情報が曖昧で、閲覧者がピンと来ないまま離脱してしまう場面が多く見られます。

そんな中で注目されているのが、「ジャンル分け」という切り口による強みの表現です。これは、サービス内容をただ羅列するのではなく、閲覧者の頭の中に“整理された選択肢”として届ける戦略であり、士業のホームページやLP(ランディングページ)制作において高い効果を発揮しています。

本記事では、この「ジャンル分け」によって士業の強みを明確化し、差別化と訴求力を両立させる方法について、具体例や背景を交えて解説していきます。

なぜ士業の「強み」は伝わりにくいのか?

まず最初に、士業のホームページが抱える構造的な問題について触れておきます。

士業の業務は、専門性が高く、一般の人から見ると複雑です。たとえば、司法書士が登記だけでなく、簡易裁判所での訴訟代理や、成年後見、相続相談など幅広く対応していることは、業界の人間には常識かもしれません。しかし、一般のユーザーにとってはそれらがどこまで対応範囲なのかが分かりづらく、結果として「何ができる人なのか」が伝わらない状態に陥りがちです。

さらに、複数の士業が扱える業務が重複していることも混乱を生みます。相続の相談なら弁護士でも、司法書士でも、税理士でも対応できる――では、誰に依頼すれば良いのか?という悩みを抱えるユーザーに対し、ただ「業務内容一覧」を提示するだけでは判断材料になりません。

このように、「強みが伝わりにくい」という問題は、

  • 業務の幅広さと専門性のギャップ
  • 顧客側の知識不足
  • 複数士業によるサービス領域の重複

といった要素によって複雑化しているのです。

ジャンル分けとは何か?

ジャンル分けとは、サービス内容を顧客目線に立って再構成し、業務をわかりやすいカテゴリに分類して見せる手法です。

この考え方は、書店の棚分類や動画配信サービスの「ジャンル」構造と似ています。顧客は最初から正しい言葉で検索できるとは限りません。たとえば、

  • 「起業を考えている」
  • 「親が亡くなって不動産を相続した」
  • 「社員を雇うことになった」

こうしたニーズの裏にある問題を、士業がどうサポートできるのかを、「法律相談」「登記」「手続き代行」といった士業目線ではなく、「起業サポート」「相続・遺産整理」「労務体制づくり」など、ユーザーが共感しやすい形で提示するのがポイントです。

ジャンル分けの具体例

1. ライフイベント別に分ける

人生の大きな節目ごとに、必要な士業サービスをまとめる方法です。

  • 【結婚・出産】
    → 婚姻届や戸籍、扶養控除、労務変更、保険関連(行政書士・社労士)
  • 【相続・終活】
    → 遺言書作成、相続登記、税務処理、成年後見(司法書士・税理士・弁護士)
  • 【起業・法人設立】
    → 会社設立登記、就業規則、許認可申請、税務・会計体制構築(司法書士・行政書士・税理士・社労士)

このような構成は、検索ユーザーが「自分に関係のある話だ」と認識しやすく、情報が届きやすくなります。

2. 顧客の属性別に分ける

  • 【個人向けサービス】
  • 【法人向けサービス】
  • 【シニア向けサービス】

このように分けることで、閲覧者が「これは自分のための情報だ」と感じやすくなります。

3. 課題・悩み別に分ける

  • 【借金で困っている】
  • 【相続人同士の話し合いが進まない】
  • 【労働トラブルで悩んでいる】
  • 【事業を始めたいが、何から手をつけて良いかわからない】

問題を直接的に言語化することで、閲覧者が「これ、自分のことかも」と立ち止まる可能性が高まります。

ジャンル分けで差別化を図る

ただ情報を分けるだけでは不十分です。ポイントは、「どのジャンルに強いのか」「なぜそのジャンルを扱っているのか」を明確にすること。つまり、「専門性の見える化」です。

たとえば、「不動産に強い司法書士」であれば、

  • これまでの登記件数
  • 不動産会社との提携実績
  • 相続や売買に伴う登記のワンストップ対応

といった情報を交えて、そのジャンルにおける“実績”や“対応力”を強調すると、差別化になります。

「全部できます」よりも「●●なら任せてください」という言葉の方が、閲覧者には響きやすいのです。

ジャンル分けはSEOにも有効

ジャンル分けの構造は、検索エンジン対策(SEO)としても大きな効果を持ちます。検索されやすいキーワードは、多くが「ジャンル」や「悩み」に直結しています。

例えば、

  • 「起業 司法書士 神奈川」
  • 「相続手続き 代行 大阪」
  • 「従業員 トラブル 社労士」

こうした複合ワードに対応するには、ジャンル分けされた構造の中に、それぞれのページが存在することが重要です。1ページに全てを詰め込むより、ジャンルごとに独立したコンテンツを用意した方が、検索上位に表示される可能性が高くなります。

ジャンル分けがもたらす心理的効果

情報が整理されているホームページは、閲覧者に安心感を与えます。特に法律や手続きに対して不安を抱えている人にとって、「ここはわかりやすい」「話を聞いてくれそう」という印象を与えることは、問い合わせに繋がる大きな要素になります。

逆に、情報が詰め込まれていてジャンルの区別が曖昧なサイトは、「この人に相談しても、自分の悩みを分かってくれないのでは?」という印象を与えてしまいかねません。

ジャンル分けとは、単なる分類ではなく、信頼感の演出でもあるのです。

まとめ:情報整理は価値そのもの

士業にとって、強みをどう伝えるかは非常に重要なテーマです。専門知識があることは前提として、それを「誰に」「どのように」届けるのかという部分において、ジャンル分けという戦略は非常に有効です。

閲覧者は「この人に相談したい」と思うまでに、自分の悩みがどのジャンルに属するかを把握し、適切な専門家を選ぶプロセスを無意識に踏んでいます。そのプロセスを助けるのが、ジャンル分けされたわかりやすい構造なのです。

これから士業のホームページや情報発信を考えるにあたり、「どのジャンルに強いのか」「どう分けて見せるべきか」という視点を持つことは、単なる表現の工夫にとどまらず、ブランディングの基盤そのものとなっていくでしょう。