相続相談は“悲しみ”と向き合う提案文で反応が上がる

「相続」という言葉には、どこか冷たさがある――。

法律、手続き、財産、税金。表面的に並ぶ言葉には、どこにも「人の気持ち」は映っていないように見える。

けれど本来、相続とは“人が亡くなった後に残される大切なもの”を引き継ぐ行為だ。そこにあるのは、財産よりも、もっと根深い感情。「悲しみ」や「戸惑い」そして「後悔」である。

このブログ記事では、相続に関する相談がなぜ「感情」に寄り添った提案文で反応が高まるのかを、士業のウェブサイトやLP(ランディングページ)における文脈から解説していく。
読者の対象は、弁護士、司法書士、行政書士、税理士、社労士など、専門知識とともに人の問題に向き合う士業の方々である。

「亡くなったあと」の検索行動

人は、家族を亡くした時、まず“現実”に直面する。
火葬、葬儀、納骨。次に来るのは「お金」や「手続き」。

しかし、ここで重要なのは、
「人は感情の整理がつかないまま、相続の手続きに突入する」ということだ。

たとえば、「相続 やること」「名義変更 死亡」「遺産分割 兄弟 揉める」などの検索キーワードは、単に情報を探しているようで、実は“迷い”や“困惑”の裏返しである。

これらの検索行動に応えるページは、
法律知識や手続きの正確性ももちろん大切だが、それ以上に「人の気持ちをどう扱うか」が問われる。

感情に訴えるページは、なぜ反応が上がるのか

相続ページの反応率――つまり、問い合わせや無料相談の申し込みにつながる率が高いページには、ある共通点がある。

それは、「悲しみ」や「不安」といった感情に、真っ向から向き合っているという点である。

たとえば、次のような表現は、反応を大きく変える。

NG例(情報中心)

相続人の確定、財産の把握、遺産分割協議など、相続には多くの手続きが必要です。

OK例(感情に寄り添う)

大切な人を亡くしたばかりで、何をどうすればよいのか分からない…
そんなお気持ちの中、相続という現実と向き合わなければならない方のために、私たちはいます。

「分からない」や「戸惑っている」は、情報ではなく感情だ。
こうした“心の声”に触れることで、読み手は「あ、自分のことだ」と感じる。

心理学的にも、“自己同一性”を感じた文章には、人は強く反応する傾向がある。つまり、「これは私のことを分かってくれている」と思わせることが、ページの反応を高めるカギなのだ。

“悲しみ”に触れることを、恐れない

士業の中には、「相続は感情ではなく、事務手続きだ」と考える人も少なくない。
確かに、専門職としての立場からすれば、感情に巻き込まれすぎることはリスクになる。

しかし、ウェブサイトやランディングページは“法律行為の場”ではない。
信頼を生み、最初の一歩を踏み出してもらうための「接点」である。

その場で必要とされるのは、冷静な知識ではなく、安心感だ。

「この人(この事務所)に、話してみようかな」
その気持ちを生む文章は、悲しみに優しく触れた言葉の中からしか生まれない。

文章が変われば、相談者が変わる

実際、次のような表現を導入した事例では、アクセス後の相談率が大きく変化した。

ビフォー

相続に関するご相談を承っております。生前対策や遺産分割など、お気軽にお問い合わせください。

アフター

「父が亡くなってから、何をすればいいのか…」
お客様の多くが、そう言ってご相談にいらっしゃいます。
誰に、何を、どう頼っていいのか分からない。
その気持ちのまま、時間だけが過ぎていく。

このように、感情のプロセスを丁寧に描くことで、「この事務所は自分の気持ちを分かってくれる」と感じ、反応に繋がっていく。

ちなみに、こうしたコピーは「ペルソナマーケティング」の一部で、広告業界では常識的な手法だ。
読み手の“感情のトンネル”を想像し、その内部で言葉を発する――それが、反応を生む文章設計の基本でもある。

“専門性”の見せ方にも、工夫が必要

感情への配慮を前面に出すと、「専門性が薄く見えるのでは」と心配する声もある。
だが、感情と専門性は対立しない。

むしろ、次のような構成を取ることで、両立は十分に可能だ。

  • 導入部:感情に寄り添う(共感の提示)
  • 問題提起:「何が起こるのか分からない」状態を言語化
  • 専門的説明:具体的な手続き・選択肢をわかりやすく記述
  • 締め:再び共感しつつ、相談への“心のハードル”を下げる言葉で終わる

専門知識は、あくまで「安心」を提供するための裏付けだ。
その知識が、人の気持ちを置き去りにしてしまっては、本末転倒である。

見出しにも“温度”を持たせる

実は、ページ内の見出し(hタグ)も、反応率を大きく左右する。

たとえば、次のような比較を見てほしい。

Aパターン(機能重視)

  • 相続の流れ
  • 必要書類
  • 税務申告

Bパターン(感情+機能)

  • 大切な人を見送ったあと、何から始めればいい?
  • 混乱の中で揃えなければならない書類たち
  • 税金のこと、今は考えられないあなたへ

Bのほうが、「読んでみようかな」と感じる確率が高くなる。
それは、言葉に“温度”があるからだ。

文章の機能性と人間性、その両方を融合させることが、今のWebコンテンツには求められている。

「悲しみに寄り添う」=「営業臭を消す」

最後に、最も重要な視点を一つ――

「感情に寄り添う」文章は、結果的に営業臭を和らげる。

多くの士業のウェブサイトが抱える最大の課題は、「信頼される前に売り込みを始めてしまっている」ことだ。

しかし、“悲しみ”に触れるコピーは、売り込みをしない。
むしろ、「営業」よりも、「理解者」としての立場を築いてくれる。

その結果、読み手は「売り込まれている」と感じず、素直に相談への第一歩を踏み出せる。

これは広告コピーの世界で言うところの、“ノンセールス・セールス”。
売り込みをしないことで、売れる導線をつくる、という逆説的な戦略だ。

まとめ

相続相談において、もっとも大切なのは、“気持ち”に言葉をかけること。
法律、財産、手続き、税務。すべて大切だ。だが、それを読み進めるのは「感情を抱えた人間」だ。

「専門性」はあなたが持っている。
だからこそ、最初のページには“感情”という扉を置いてほしい。

たった一言の「分かります」が、反応を劇的に変えることを、忘れてはいけない。